タカラバイオ株式会社(社長:仲尾功一)とペンシルベニア大学(ペンシルベニア州フィラデルフィア)とは、米国においてHIV遺伝子治療の臨床試験を実施することを目指し、2010年3月11日付で共同研究契約書を締結しました。本契約のもと、当社とペンシルベニア大学医学部のカール・ジューン(Carl June)教授らのグループとは、米国食品医薬品局(FDA; Food and Drug Administration)への臨床試験実施申請資料(IND; Investigational New Drug)の提出に向けた非臨床試験や一連の申請作業を共同で実施します。

 

当社は、大腸菌由来のRNA分解酵素であるMazFを用いたHIV遺伝子治療の研究開発を進めています。当社はこれまでにエイズウイルス(HIV)を用いた培養細胞への感染実験により、MazF遺伝子をヒトT細胞に導入することによって、HIVの複製が効果的に抑制されることを発見しています。また、MazF遺伝子をレトロウイルスベクターにより導入したヒトT細胞に、様々な抗HIV薬が効かなくなった多剤耐性HIV株を感染させたところ増殖を抑制できること(鹿児島大学との共同研究)などの有望な結果を示してきました。また、医薬基盤研究所霊長類医科学研究センターと共同で、サルを用いたMazF遺伝子治療の動物試験も実施しています。

 

当社は、市場性、体外遺伝子治療の臨床試験の実績、臨床試験終了後のグローバル展開等を考慮し、最初にMazF遺伝子治療の臨床試験を実施する地域として、米国を選択しました。また、カール・ジューン教授は、これまでに米国で実施された複数のHIV遺伝子治療の臨床試験実施責任者を務めた実績があり、IND申請や臨床試験に関する経験やノウハウを有しています。

 

本契約のもとで、当社とペンシルベニア大学は、当社がこれまでに取得してきたMazF遺伝子治療に関連する実験結果等を利用しつつ、米国でのIND申請のために必要となる動物試験などの非臨床試験、遺伝子導入細胞のGMP製造の検討、FDAとのIND前(pre-IND)ミーティングや申請作業等を共同で実施します。2年以内にFDAへのIND申請を完了し、米国で臨床試験を開始することを目指します。

 

本契約締結による当社連結及び単体の平成22年3月期業績への直接的な影響は軽微です。

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

【語句説明】

HIV(エイズウイルス)
後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスです。HIVはレトロウイルス科レンチウイルス属に属します。HIVは変異しやすいウイルスのため、ワクチンや抗HIV剤の開発を阻んでいます。HIVがT細胞などに直接感染することにより、あるいは感染細胞が非感染細胞に融合することにより、体内に広がります。
HIVは血清学的・遺伝学的性状の異なるHIV-1とHIV-2に大別されます。HIV-1は、世界流行の主体となっており、全世界に分布していますが、HIV-2は主に西アフリカ地域に限局しています。これは、HIV-2がHIV-1と比較して感染性や病原性が低いためと考えられています。

 

MazF
ニュージャージー医科歯科大学の井上正順教授は、大腸菌のトキシンのひとつであるMazFが、メッセンジャーRNA中のACAの塩基配列を特異的に認識して切断する機能を有する酵素であることを発見しました。

 

レトロウイルスベクター
レトロウイルスとは、一本鎖RNAをゲノムとする約0.1 μmのウイルスで、このウイルスが感染した細胞では、RNAゲノムから合成されたDNAが染色体に組み込まれます。遺伝子治療用ベクターとして、レトロウイルスの一種であるマウス白血病ウイルス(MoMLV:Moloney murine leukemia virus)を特別な細胞の中でのみ増殖できるように改変し、自己増殖能を奪ったものが広く用いられています。このベクターを使用すれば種々の細胞に遺伝子導入を行うことができ、安定した形質発現が期待できます。

 

多剤耐性HIV株
様々な抗HIV薬によって増殖が阻害されなくなったHIVを意味します。

 

GMP
Good Manufacturing Practiceの略で、医薬品を製造する際に遵守すべき「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則」を指します。GMPは、安全で品質が担保された医薬品を供給するため、医薬品の製造時の管理、遵守事項を各国の規制当局が定めたものです。