タカラバイオ株式会社は、非ホジキンリンパ腫を対象としたキメラ抗原受容体(CAR; Chimeric Antigen Receptor)を用いた遺伝子治療の臨床研究を日本において実施するため、米国メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(以下「MSKCC」、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center;ニューヨーク州)と2011年10月25日に提携契約を締結しました。当社はMSKCCの保有するCAR遺伝子治療の臨床試験に関連するデータや材料の提供を受け、日本での臨床研究に使用します。

 

CAR遺伝子治療とは、がん細胞が発現する抗原に対するキメラ抗原受容体の遺伝子を患者のT細胞に体外で導入し、その遺伝子導入細胞を患者に戻し、がんを攻撃する治療法です。近年、TCR遺伝子治療と並び、CAR遺伝子治療の臨床研究も進められており、有効性を示す研究データの報告もなされています。CAR遺伝子治療には、ヒト白血球抗原(HLA)の型に依存せず、より多くの患者に適用することができるといった特徴があります。

 

MSKCCは、2007年より白血病を対象としたCAR遺伝子治療の臨床試験を米国で実施しております。この遺伝子治療では、がん化したB細胞の表面に発現しているタンパク質であるCD19という分子を標的とするCAR(CD19-CAR)が使用されています。CD19-CARを発現するよう改変された患者のT細胞が、患者の体内に戻された後、がん化したB細胞のCD19を認識して攻撃し、白血病細胞を破壊するというメカニズムです。MSKCCは、本治療を受け評価可能となった8例のうち、3例で有効性が示唆されたという有望な結果を、本年8月にBlood誌に発表(2011年8月17日オンライン公開)しています。

 

当社は、自治医科大学に設置した寄附講座「免疫遺伝子細胞治療学(タカラバイオ)講座」と共同で、非ホジキンリンパ腫を対象としたCD19-CAR遺伝子治療の臨床開発プロジェクトを推進します。MSKCCより提供を受けるCD19-CAR等を利用し、当該臨床研究に使用されるGMPグレードのレトロウイルスベクターを当社で製造する計画です。自治医科大学附属病院において2013年度を目標に本臨床研究を開始することを計画しています。なお、本契約締結による当社連結及び単体の平成24年3月期業績への直接的な影響は軽微です。



 

【寄附講座の概要】

 

名称 免疫遺伝子細胞治療学(タカラバイオ)講座
設置期間 平成23年4月1日から平成26年3月31日まで
寄附金総額 9,000万円(3,000万円×3年)(税込)
体制 小澤敬也 教授(兼任)、大嶺謙 講師(兼任)、
塚原智典 助教(兼任)、内堀亮介 助教(専任)

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

【語句説明】

 

非ホジキンリンパ腫
ヒトの免疫システムを構成するリンパ系組織から発生する腫瘍である悪性リンパ腫は、その形態学的特徴から、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分類されます。日本人の場合、悪性リンパ腫のうち約90%が非ホジキンリンパ腫です。首や脇の下、足のつけ根などのリンパ節が腫れ、しこりになるといった症状が現れます。日本人の2002年における悪性リンパ腫の年間推定患者数は約1万5500人、発生率は10万人に約12人程で近年増加傾向にあります。

キメラ抗原受容体
キメラ抗原受容体(CAR; Chimeric Antigen Receptor)は、あるがん抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体由来の単鎖抗体(scFV)と、T細胞受容体の細胞質シグナル伝達ドメインであるCD3ζ鎖を遺伝子工学的に結合させて作製された、がん抗原を特異的に認識できる受容体です。T細胞受容体と異なり、CARはヒト白血球抗原(HLA)の型に制限されることなくがん抗原を認識することができます。したがって、CARを表面に発現したT細胞を患者に戻すCAR遺伝子治療は、HLAの型に関係なく、対象となるがん抗原を持つ全ての患者に用いることができます。

T細胞
標的細胞の傷害と抗体産生の調節の役割を担う重要な細胞で、Tリンパ球とも呼ばれます。免疫系の司令塔的な役割を担っており、末梢リンパ組織の胸腺依存領域に主に分布します。

TCR遺伝子治療
TCR遺伝子治療とは、患者のがん細胞に発現しているがん抗原を特異的に認識するTCR(T細胞受容体)の遺伝子を自己リンパ球に導入し、患者に輸注する治療法です。当社は、三重大学医学部と共同で、食道がんを対象としたTCR遺伝子治療の臨床研究を実施しています。

ヒト白血球抗原(HLA)
ヒト白血球抗原(HLA; Human Leukocyte Antigen)は、免疫系が自己と非自己を区別して認識する際に最も重要な役割を担う分子です。T細胞によるがん細胞の認識は、T細胞表面にあるTCRがHLAとがん抗原ペプチドの複合体に結合することで行われ、それぞれのTCRには結合できるHLAの型が決まっています。

CD19
B細胞の表面に存在する糖蛋白で、B細胞の活性化や増殖に関与しています。また、慢性リンパ性白血病や急性リンパ性白血病などの多くのB細胞リンパ腫のB細胞表面にも発現しています。

レトロウイルスベクター
レトロウイルスとは、一本鎖RNAをゲノムとする約0.1 μmのウイルスで、このウイルスが感染した細胞では、RNAゲノムから合成されたDNAが染色体に組み込まれます。遺伝子治療用ベクターとして、レトロウイルスの一種であるマウス白血病ウイルス(MoMLV:Moloney murine leukemia virus)を特別な細胞の中でのみ増殖できるように改変し、自己増殖能を奪ったものが広く用いられています。このベクターを使用すれば種々の細胞に遺伝子導入を行うことができ、安定した形質発現が期待できます。