タカラバイオ株式会社は、滋賀県草津市に土地を確保し、細胞・遺伝子治療用の研究・製造施設を新設します。新施設は、遺伝子治療・再生医療用の遺伝子導入用ベクター及び遺伝子導入細胞のGMP製造(医薬品の製造管理、品質管理基準に準拠した製造)や、基盤技術開発を行うための施設です。
GMP製造の対象となる遺伝子導入用ベクターは、レトロウイルスベクター、iPS細胞作製用プラスミドベクター、HF10等の単純ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター等を想定しております。

 

当社は、HSV-TK遺伝子治療、MazF遺伝子治療、がん治療薬HF10等の臨床試験を日本及び米国で実施しており、2017年以降の商業化を目指しています。また、当社は、本社(滋賀県大津市)及び草津事業所(滋賀県草津市)にある既存の施設を利用して、遺伝子治療・細胞医療の基盤技術開発、自社プロジェクト用ベクターのGMP製造、臨床試験用ベクターのGMP製造受託サービスも行っています。

 

当社の遺伝子治療臨床開発プロジェクトは計画通り進んでおり、臨床試験後期のステージにおいては、現存の施設では遺伝子治療用ベクターの製造能力が不足します。また、臨床試験用ベクターの製造受託サービスのニーズも高まっており、製造施設の拡張が必要です。
さらに、遺伝子治療臨床試験の後期ステージにおいては、患者に投与される遺伝子導入細胞を調製する工程を、厳密な管理のもとで集約して実施する細胞加工施設が、医療機関内ではなく当社の施設として必要となります。

 

当社は、体外遺伝子治療の臨床試験を実施している国内で唯一の企業ですが、この優位性を確固としたものにすべく、新施設を設置し、遺伝子治療の自社プロジェクトを加速させ、また大学や企業からの遺伝子導入用ベクターのGMP製造受託サービスの売上拡大を図ります。さらに、遺伝子治療・細胞医療の研究開発から製造までの体制を集約し、研究開発の効率化も図ります。

 

現在、施工業者の選定を行っており、新施設の投資額は、併設する前臨床試験用動物実験施設も含めて40億円程度で、完成時期は2014年3月を予定しております。

 

また、今回取得を決定した土地では、新施設の建設に加え、現在、滋賀県及び三重県に展開している国内拠点の統合も視野に入れており、生産性の向上とコスト削減の観点から、最適な事業拠点の再配置を検討していきます。なお、新施設の投資額に土地の取得代金をあわせた総投資額(約70億円の予定)は、全額自己資金でまかないます。



 

【遺伝子治療・細胞医療用の新施設の概要】

 

所在地 滋賀県草津市
延床面積 約7,000平米(予定)
投資額 約40億円(予定、土地代金を含まず)
完成時期 2014年3月(予定)

 

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

【語句説明】

 

ベクター

目的遺伝子を細胞やバクテリアに導入するための分子。プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどがあります。

 

レトロウイルスベクター

レトロウイルスとは、一本鎖RNAをゲノムとするウイルスで、このウイルスが感染した細胞では、RNAゲノムから合成されたDNAが染色体に組み込まれます。遺伝子治療用ベクターとして、レトロウイルスの一種であるマウス白血病ウイルス(MoMLV:Moloney murine leukemia virus)を特別な細胞の中でのみ増殖できるように改変し、自己増殖能を奪ったものが広く用いられています。このベクターを使用すれば種々の細胞に遺伝子導入を行うことができ、導入した遺伝子の安定した発現が期待できます。

 

プラスミドベクター

プラスミドは、染色体 DNA 以外の細胞質 DNA の名称で、環状の二本鎖構造をとるDNAで、染色体とは独立して自律的に増殖し、親から子へ伝えられます。プラスミドを利用して目的遺伝子を組み込んだものをプラスミドベクターと呼びます。プラスミドベクターを用いて細胞に目的遺伝子を導入し、タンパク質を生産させることができます。

 

単純ヘルペスウイルス

単純ヘルペスウイルスは、唇にできる口唇ヘルペス(口内炎)や、眼の角膜にできるびらん(単純ヘルペス角膜炎)などの原因となります。感染しても、多くの場合は症状をあらわすことなく体内に潜んでいますが、ストレス・過労・病気などの要因で体力が低下すると症状をあらわします。アシクロビルをはじめとした抗ウイルス剤が有効です。

 

アデノ随伴ウイルスベクター

アデノ随伴ウイルス(AAV)は、一本鎖DNAウイルスでヒトに感染した際、19番染色体の特定の領域に組み込まれることが知られています。アデノ随伴ウイルスベクターは、遺伝子導入できる大きさが4,500塩基程度と小さいですが、病原性がないウイルス由来のものであり安全性が高いことや、神経などの非分裂細胞にも遺伝子導入できるという利点があります。

 

センダイウイルスベクター

センダイウイルスは、一本鎖のRNAゲノムを持つウイルスで、感染しても細胞質で増殖し、ウイルス由来ゲノムが染色体に組み込まれないという特徴があります。センダイウイルスベクターは、分裂細胞及び非分裂細胞に感染することができ、宿主細胞のゲノムに影響を与えず、細胞質で増殖できるという特徴があります。

 

レンチウイルスベクター

レンチウイルスは、一本鎖RNAをゲノムとするレトロウイルス科レンチウイルス亜科のウイルスで、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus; HIV)、サル免疫不全ウイルス(Simian Immunodeficiency Virus; SIV)などがあげられます。レトロウイルスと同様、RNAゲノムから合成されたDNAが染色体に組み込まれますが、細胞分裂を行っていない静止期の細胞の染色体にも組み込むことができる点がレンチウイルスの大きな特徴です。遺伝子治療用レンチウイルスベクターとして、ヒト免疫ウイルス1型(HIV-1)を改変し、自己増殖能を奪ったものが広く用いられています。

 

アデノウイルスベクター

アデノウイルスは、二本鎖DNAウイルスで、感染後DNAは染色体に組み込まれません。最も汎用されているアデノウイルスベクターはヒトアデノウイルス5 型由来のもので、E1 およびE3 遺伝子を欠失し自己増殖能を消失したものです。一過性に強力に遺伝子を発現し、ヒトだけでなくマウスやラットを含む広範囲の動物細胞に効率よく遺伝子導入でき、増殖細胞だけでなく神経など静止期の細胞に感染し発現することができます。

 

GMP製造

GMP準拠で製造を行う事。GMPとは、Good Manufacturing Practiceの略で、医薬品を製造する際に遵守すべき「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則」を指します。GMPは、安全で品質が担保された医薬品を供給するため、医薬品の製造時の管理、遵守事項を各国の規制当局が定めたものです。

 

HSV-TK遺伝子治療

当社は、イタリアのMolMed社よりライセンスを受け、国内で再発白血病を対象として、国立がん研究センターにおいて、HSV-TK遺伝子治療の第Ⅰ相臨床試験を実施しています。
現在、ドナーリンパ球輸注(DLI)療法が行われていますが、副作用として生じる移植片対宿主病(GVHD)が重大な問題となっています。このGVHDを沈静化する手段を備えたDLI療法により再発造血器悪性腫瘍の治療を試みるものであり、レトロウイルスベクターを用いてHSV-TK遺伝子が導入されたドナー由来リンパ球が被験者に投与されます。GVHDが発症した際には、ガンシクロビルという薬剤を投与し、導入されたHSV-TK遺伝子の働きによってドナー由来のリンパ球のみを消滅させ、GVHDの沈静化を図ります。

 

MazF遺伝子治療

HIVが感染した際に、RNA分解酵素MazFが発現する仕組みを持たせたレトロウイルスベクターを用いて、体外において患者由来のT細胞に遺伝子導入します。患者に戻されたMazF遺伝子導入T細胞は、HIVが感染してもMazFによってウイルスの増殖が阻止されるため、その機能が保持され、HIV感染症の治療につながることが期待されます。当社は、米国のペンシルベニア大学、ドレクセル大学と共同で、MazF遺伝子を用いたエイズ遺伝子治療の第Ⅰ相臨床試験を米国において開始しました。

 

がん治療薬HF10

当社は、2010年11月にHF10事業を株式会社エムズサイエンスより取得しました。当社は現在、頭頸部がん等の固形がんを対象としたがん治療薬HF10の第Ⅰ相臨床試験を米国において実施しています。HF10は単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の弱毒化株で、がん局所に注入することによって顕著な抗腫瘍作用を示します。このようなウイルスは腫瘍溶解性ウイルス(oncolytic virus)と呼ばれています。
さらに、2012年2月より三重大学医学部附属病院でHF10の臨床研究を開始しました。