タカラバイオ株式会社と独立行政法人国立がん研究センターとは、造血器悪性腫瘍を対象としたHSV-TK遺伝子治療(ハプロAdd-back)の臨床研究を共同で実施していますが、当社と国立がん研究センター中央病院 造血幹細胞移植科 平家勇司 医長らは、以下の学会等で本臨床研究の途中経過(2例、末尾の要旨参照)を発表します。

 

1)日本学術振興会 二国間交流事業セミナー「日米における遺伝子・細胞療法のトランスレーショナルリサーチの現状」(平成23年7月14日、場所:九州大学医学部百年講堂)
2)第17回日本遺伝子治療学会年次学術集会(平成23年7月15~17日、場所:九州大学医学部百年講堂)

 

HSV-TK遺伝子治療(ハプロAdd-back)とは、造血器悪性腫瘍患者に、ハプロタイプ一致ドナーから、T細胞除去造血幹細胞移植を行った後、HSV-TK遺伝子導入ドナーリンパ球を追加輸注(Add-back)することで、感染症を軽減し、かつ重篤な移植片対宿主病(GVHD)が発症した場合にはガンシクロビルを投与しHSV-TK遺伝子の働きを利用してGVHDを沈静化するというものです。これにより、適切なドナーが見つからないため、造血幹細胞移植を行えない造血器悪性腫瘍患者に新たな治療法が提供できると期待されます。

HSV-TK遺伝子治療(ハプロAdd-back)は、モルメド社がイタリアで治験(第III相)を実施中です。また、当社は国立がん研究センターにおいてHSV-TK遺伝子治療(ドナーリンパ球輸注療法)の治験(第Ⅰ相)を実施中です。当社は国立がん研究センターと共同で、引き続き本臨床研究を実施し、本臨床研究やイタリア・日本での治験から得られる成果を利用し、日本におけるHSV-TK遺伝子治療の商業化に向けた臨床開発を推進していきます。 

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

【本臨床研究の概要】

 

名称:「ハプロタイプ一致ドナー由来T細胞除去造血幹細胞移植後のHSV-TK遺伝子導入Tリンパ球 “Add-back” 療法」
対象:HLA適合ドナーがいない高リスク造血器悪性腫瘍
評価項目:安全性、免疫再構築、GVHD発症時の制御能等
目標症例数:10例

 

 

【語句説明】

 

HSV-TK
単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV-TK)は、ヒトが持つチミジンキナーゼとは異なり、ガンシクロビルなどの抗ウイルス剤をリン酸化し、細胞毒性を有する最終産物を生成します。この仕組みを利用することで、ガンシクロビルによりHSV-TK遺伝子を発現する細胞のみを死滅させることが可能です。

造血器悪性腫瘍
血液のがんの総称で、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫等が含まれます。

ハプロタイプとHLA
HLA(human leukocyte antigen:ヒト白血球抗原)は、自己と非自己を区別して認識する最も重要なヒト白血球上の抗原で、ヒトの6番染色体に存在し、一塊(ハプロタイプ)として遺伝します。ヒトには多数のHLA遺伝子が存在しますが、移植時にHLA適合性として検査されているのは、通常A、B、DRの3種類の遺伝子座由来の抗原です。父母から1組ずつのハプロタイプを受け継ぐので、親子の間ではハプロタイプが一致(多くの場合、6座のHLA遺伝子座のうち2~3座が不一致)します。また、兄弟姉妹の間では、1/4の確率でHLAが一致し、1/2の確率でハプロタイプが一致します。

ハプロタイプ一致造血幹細胞移植
造血幹細胞移植は造血器悪性腫瘍に対する有力な治療法です。拒絶やGVHDを防ぐために、通常はHLA完全一致又は1座不一致のドナーが選択されます。しかし、血縁者、骨髄バンク、臍帯血バンクなどから適切なドナーが見つからない場合も少なくありません。このようなケースには、血縁者から高い確率でドナーを見出せるハプロタイプ一致造血幹細胞移植は有力な選択肢となりえますが、以下の課題を解決する必要があります。ドナーから採取した造血幹細胞にはT細胞(リンパ球の一種)が多く含まれるので、HLAの不一致度が高いハプロタイプ一致ドナーから造血幹細胞移植を行う際には、重篤なGVHDを予防するために造血幹細胞からT細胞を除去しておく必要があります。しかし、この移植直後の患者において免疫系はほとんど機能しないので、感染症のリスクが非常に大きくなります。そこでT細胞除去造血幹細胞移植を行った後に、免疫系を回復させるために比較的少数のドナーリンパ球を追加輸注(Add-back)することが試みられましたが、ドナーリンパ球による重篤なGVHDが問題となっています。

HSV-TK遺伝子導入ドナーリンパ球によるAdd-back療法
本遺伝子治療では、ハプロタイプ一致ドナー由来の造血幹細胞からT細胞を除去してから患者に移植したあと、HSV-TK遺伝子導入ドナーリンパ球をAdd-backします。重篤なGVHDが発症した場合には、ガンシクロビルを投与することによりドナーリンパ球を除去し、GVHDを沈静化します。これにより、免疫系の回復を図りつつ重篤なGVHDを回避することが可能となります。

移植片対宿主病(GVHD)
移植したドナー由来のリンパ球が患者の細胞や組織を異物とみなして患者自身を攻撃する免疫反応です。造血幹細胞移植にしばしばみられる合併症であり、重篤なGVHDが発症すると生命にかかわることもあります。

HSV-TK遺伝子治療(ドナーリンパ球輸注療法)
HSV-TK遺伝子導入ドナーリンパ球を同種造血幹細胞移植後に再発した造血器悪性腫瘍患者へのドナーリンパ球輸注療法に使用するというものです。重度のGVHDが生じた場合は、ガンシクロビルを投与してHSV-TK遺伝子の働きによりドナー由来のリンパ球のみを死滅させ、GVHDを沈静化させることができます。さらに、将来的には移植するリンパ球数を増加させ治療効果を高めることも期待できます。
 

 

【要旨】

 

Phase-I trial of T cell-depleted haplo-identical stem cell transplantation (Haplo-SCT) combined with HSV-TK gene modified T cell add-back

 

Yuji Heikesup{1}, Takako Wakedasup{1}, Takahiro Fukudasup{1}, Shinichiro Morisup{1}, Ikuei Nukayasup{2}, Jun-ichi Minenosup{2}, Kazuto Takesakosup{2} and Yoich Takauesup{3}

 

sup{1} National Cancer Center Hospital, Tokyo, JAPAN

sup{2} Center for Cell and Gene Therapy, Takara Bio Inc., Shiga, JAPAN

sup{3} St. Luke’s International Hospital, Tokyo, JAPAN

 

Cord blood is the first choice as an alternative donor for hematopoietic stem cell transplantation, when appropriate donors (HLA-full match or 1 locus mismatch donors) are not available for high-risk leukemia patients in Japan. However, there are several problems in cord blood transplantation (CBT), especially in early phase of transplantation, such as higher infection and relapse rate and late recovery of platelet, etc. Haplo-SCT is another alternative method and has been developed in many countries. The problem of naked haplo-SCT is severe graft-versus-host disease (GvHD) caused by uncontrolled alloimmune- reactivity of donor T cells and that of T-cell depleted haplo-SCT is higher infection and relapse rate caused by delay of immune reconstitution (IR).

 

Combination of HSV-TK and GCV is a well-known strategy in gene therapy field, as “suicide gene therapy”. Bordignon et al. have already reported the results of Phase I/II trial of Haplo-SCT combined with HSV-TK gene modified T cell add-back.

 

We are also challenging to develop it and we had experiences of the best-case scenario and the worst-case scenario in our first two cases.

 

The first case is a 47 y.o. female ALL patient and IR was achieved after three times T-cell “add-back”. GvHD appeared on the same day of IR and administration of GCV completely cured GvHD. This patient is alive without relapse or viral/fungal infection for 10 months. The second case is a 59 y.o. male AML patient and he died from viral infection before achievement of IR. These two cases suggested that add-back therapy with HSV-TK gene modified T cells is essential for successful Haplo-SCT, and HSV-TK/GCV system is useful to control GvHD caused by add-backed T cells.

 

I will show the detail of the cases and will discuss the advantage of Haplo-SCT combined with HSV-TK gene modified T cell add-back.