タカラバイオ株式会社は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症に対するMazF遺伝子治療法に関する特許を日本、米国、欧州等に出願していましたが、今般、日本及び欧州で特許査定の通知を受けました。当該特許は、当社が米国で臨床開発を進めているMazF遺伝子治療の基本特許と位置づけられるものです。

 

今般、特許査定の通知を受けた特許出願は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染に応答して、一本鎖RNA特異的なエンドリボヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドを発現する核酸、ならびに当該核酸を遺伝子導入された細胞に関するものです。それぞれの特許の出願番号は、以下です。

 

 日本: 特願2007-530970
 欧州: 06796333.0

 

また、当該特許はすでに中国、香港、シンガポールで特許登録済みです。

 

国連合同エイズ計画(UNAIDS)の報告によると2010年のHIV感染者は、全世界で3,400万人、北米で130万人、西欧・中欧で84万人です。現在、多剤併用療法が広く利用できるようになり、エイズによる死亡を大きく減少させることができていますが、HIV感染者の数は増加傾向です。一方で、多剤併用療法は、副作用の問題や、薬剤耐性ウイルス出現の問題などもあり、新たなアプローチでのHIV感染症治療法の開発が望まれています。

 

当社が臨床開発を進めるMazF遺伝子治療は、細胞実験で多剤耐性HIV臨床分離株にも増殖抑制効果を示すことが確認されています。MazF遺伝子治療法は、多剤併用療法の薬剤耐性ウイルス出現等の課題を克服できる可能性を秘めており、当社は米国での臨床開発を推進してまいります。

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

【語句説明】

 

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)

後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスです。HIVはレトロウイルス科レンチウイルス属に属します。HIVは変異しやすいウイルスのため、ワクチンや抗HIV薬の開発を阻んでいます。HIVがT細胞などに直接感染することにより、あるいは感染細胞が非感染細胞に融合することにより、体内に広がります。 HIVは血清学的・遺伝学的性状の異なるHIV-1とHIV-2に大別されます。HIV-1は、世界流行の主体となっており、全世界に分布していますが、HIV-2は主に西アフリカ地域に限局しています。これは、HIV-2がHIV-1と比較して感染性や病原性が低いためと考えられています。

 

エンドリボヌクレアーゼ

リボ核酸(RNA)を分解してオリゴヌクレオチドあるいはモノヌクレオチドにする反応を触媒する酵素をリボヌクレアーゼと呼び、RNA鎖の外側からRNAを分解していく酵素をエキソリボヌクレアーゼ、RNA鎖の内部を分解していく酵素をエンドリボヌクレアーゼと呼びます。RNAの塩基配列に関係なく分解する酵素もあれば、特定の塩基配列を識別して分解を行う基質特異性の高いものもあり、種類は多様です。

 

MazF遺伝子治療

当社は、大腸菌由来のRNA分解酵素(エンドリボヌクレアーゼ)であるMazFを用いたHIV遺伝子治療(MazF遺伝子治療)の開発を進めています。当社はこれまでにエイズの原因ウイルス(HIV-1)を用いた培養細胞への感染実験により、MazF遺伝子をヒトT細胞に導入することによって、細胞に対しては毒性を示すことなく、HIV-1の複製のみが効果的に抑制されることを発見しています。また、MazF遺伝子をレトロウイルスベクターにより導入したヒトT細胞に、様々な抗HIV薬が効かなくなった多剤耐性HIV-1株を感染させたところ増殖を抑制できること(鹿児島大学との共同研究)などの有望な結果を示してきました。また、医薬基盤研究所霊長類医科学研究センターと共同で、サルを用いたMazF遺伝子治療の動物試験も実施し、MazF遺伝子を導入した細胞がサル個体に対しても安全であることを確認しています。
当社は、MazF遺伝子治療の米国における臨床試験実施を目指し、ペンシルベニア大学医学部のカール・ジューン(Carl June)教授らのグループと共同で第I相の臨床試験を推進しています。

 

MazF

ニュージャージー医科歯科大学の井上正順教授は、当社との共同研究において、大腸菌のトキシンのひとつであるMazFが、RNA中のACAの塩基配列を特異的に認識して切断する機能を有するエンドリボヌクレアーゼであることを発見しました。

 

多剤併用療法(Anti-retroviral Therapy; ART)

HIV感染症に対する治療法としては、血中のウイルス量を抑え続けるために、強力な多剤併用療法がおこなわれています。これにより、HIV感染症の進行を抑えて、免疫機能を保持し、死亡を減らすことを目指します。