タカラバイオ株式会社は、造血器悪性腫瘍を対象とした遺伝子治療用医薬品(開発コード:TBI-1101)の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を韓国において実施するためのIND(Investigational New Drug、新薬臨床試験開始届)を2013年2月22日付でKFDA(Korea Food & Drug Administration、韓国食品医薬品安全庁)に提出しました。

 

当社は2008年より国立がん研究センターで遺伝子治療用医薬品(開発コード:TBI-0301)の第Ⅰ相臨床試験を実施してきましたが、現時点での症例数は少数にとどまっています。HSV-TK遺伝子治療プロジェクトの2017年度の商業化に向けて症例の登録を加速させるため、以下の2点を変更します。
 ①対象疾患を「同種造血幹細胞移植後に再発した造血器悪性腫瘍」から、「HLA不適合同種造血幹
  細胞移植後に寛解導入不能もしくは再発した造血器悪性腫瘍」に変更
 ②治験実施国を「日本のみ」から、「日本及び韓国」に変更
これらを変更した日韓共同治験(第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験)の開始準備を進め、今般KFDAへのINDを提出するに至りました。

 

当社は、KFDAによるINDの審査を本年5月中に終え、臨床試験実施施設のIRB(Institutional Review Board、治験審査委員会)による審査などを経て、TBI-1101の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を韓国において開始する予定です。

 

日本では、TBI-1101の治験開始に向けて、治験薬が「遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性の確保に関する指針」や細胞組織加工製品に関する各種ガイドラインに適合していることについて医薬品医療機器総合機構の審査を受けています。日本においても、韓国に続いて臨床試験を開始する計画です。

 

なお、現在国立がん研究センターで実施中のTBI-0301の治験は2013年3月末に中止予定であり、今後のHSV-TK遺伝子治療プロジェクトはTBI-1101の日韓共同治験に注力し、2017年度の商業化に向けて開発を推進していきます。



 

【臨床試験概要】

 

治験依頼者 タカラバイオ株式会社
対象患者 HLA不適合移植を受けた寛解導入不能もしくは再発又は重篤な感染症をきたした造血器悪性腫瘍患者
治療法 HSV-TK遺伝子導入細胞を2週間隔で3回静脈内に輸注
主要評価項目 <第Ⅰ相>
・TBI-1101の安全性及び血中動態
<第Ⅱ相>
・TBI-1101の有効性(抗白血病効果、又は抗感染症効果)
目標症例数 評価可能な被験者として30~33例
(第Ⅰ相3~6例、第Ⅱ相27例)
治験薬 HSV-TK遺伝子を含むレトロウイルスベクターにより遺伝子導入されたHLA不適合ドナー由来リンパ球
試験期間 3年間(予定)
HLA不適合造血幹
細胞移植の現状
同種造血幹細胞移植を必要とする難治性造血器悪性腫瘍において、HLA適合ドナーが見つからなければHLA不適合ドナーからの移植が選択される場合があります。HLA不適合ドナー由来の造血幹細胞を移植する場合、HLA適合ドナーからの移植に比べ、造血幹細胞移植片に混在するリンパ球に起因する移植片対宿主病(GVHD)の頻度及び重症度が高いことが知られています。GVHDを予防するため、免疫抑制剤の使用に加えて、HLA不適合ドナー由来のリンパ球を除去したうえで造血幹細胞移植が実施されています。一方、リンパ球を除去すると、造血幹細胞移植後のリンパ球の機能が十分に回復せず、免疫系の再構築が遅れるため、感染症、さらには再発のリスクが高まります。また、HLA不適合ドナーからの造血幹細胞移植は、治療抵抗性のため移植前の治療により寛解が得られなかった場合に実施されることが多く、さらに移植によっても寛解導入できなかった患者に対する有効な治療法はありません。
TBI-1101によるドナー
リンパ球輸注療法
TBI-1101によるドナーリンパ球輸注(DLI)療法は、上記の医療ニーズを満たしうるもので、TBI-1101はドナーリンパ球の移植片対腫瘍(GVM)効果及び移植片対感染症(GVI)効果により原疾患の寛解導入不能もしくは再発又は移植後の重篤なウイルス感染症に対する治療効果を期待できるとともに、重篤なGVHDが発症した際には、ガンシクロビルの投与によりGVHDを沈静化できるという安全装置を備えています。

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

【語句説明】

 

HSV-TK

単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼの略称です。HSV-TKは、ヒトが持つチミジンキナーゼとは異なり、ガンシクロビルなどの抗ウイルス剤をリン酸化し、細胞毒性を有する最終産物を生成します。従って、抗サイトメガロウイルス薬として承認されているガンシクロビルによりHSV-TK遺伝子を発現する細胞のみを死滅させることが可能です。

 

HSV-TK遺伝子治療(TBI-1101)

HLA不適合同種造血幹細胞移植のドナーから採取したリンパ球に、レトロウイルスベクターを用いてHSV-TK遺伝子を体外で導入したものがTBI-1101です。本遺伝子治療は、同種造血幹細胞移植後に、寛解導入不能もしくは再発又は重篤なウイルス感染症をきたした患者さんにTBI-1101を投与するという、ドナーリンパ球輸注(DLI)療法であり、これらの患者さんに対する新たな治療法となりうるものです。重度の移植片対宿主病(GVHD)が生じた場合は、ガンシクロビルを投与してHSV-TK遺伝子の働きによりドナー由来のリンパ球のみを死滅させ、GVHDを沈静化することができます。

 

造血器悪性腫瘍

血液のがんの総称で、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫等が含まれます。

 

HLA

HLA(human leukocyte antigen、ヒト白血球抗原)は、自己と非自己を区別して認識する最も重要なヒト白血球上の抗原で、ヒトの6番染色体に存在し、一塊(ハプロタイプ)として遺伝します。ヒトには多数のHLA遺伝子が存在しますが、移植時にHLA適合性として検査されているのは、通常A、B、DRの3種類の遺伝子座由来の抗原です。父母から1組ずつのハプロタイプを受け継ぐので、親子の間では少なくとも6座のうち3座が一致します。また、兄弟姉妹の間では、1/4の確率でHLAが一致し、1/2の確率で3座以上が一致します。

 

HLA不適合同種造血幹細胞移植

6座がすべて一致したドナーからの造血幹細胞移植をHLA適合同種造血幹細胞移植と呼びます。一方、HLAが適合したドナー(臍帯血を含む)が見つからない場合、HLA不適合同種造血幹細胞移植が選択肢となり、全6座のうち、3~5座が一致したドナーの造血幹細胞が移植されます。

 

寛解

治療により、病気による症状が好転又は消失しており、症状が臨床的にコントロールできている状態を指します。

 

移植片対宿主病(GVHD; graft-versus-host disease)

ドナー由来のリンパ球が、患者の正常な細胞や組織を異物とみなして攻撃する免疫反応です。

 

移植片対腫瘍(GVM; graft-versus-malignancy)効果

ドナー由来のリンパ球が、がん細胞を攻撃することによる治療効果を指します。

 

移植片対感染症(GVI; graft-versus-infection)効果

ドナー由来のリンパ球が、免疫機能として働くことにより、感染症を予防・治療する効果を指します。