タカラバイオ株式会社と自治医科大学附属病院が共同で実施を予定している、悪性リンパ腫の一種である非ホジキンリンパ腫(B-NHL)に対するCD19抗原特異的キメラ抗原受容体(CAR; Chimeric Antigen Receptor)遺伝子治療の臨床研究実施計画が、厚生労働省 厚生科学審議会 科学技術部会において了承され、本年3月4日付で厚生労働大臣から通知されました。今後、倫理審査等の手続きを経て、臨床研究を開始する予定です。

 

CAR遺伝子治療とは体外遺伝子治療の一種で、海外では、悪性リンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)等を対象とした臨床試験が多数実施されています。中でも、米国ニューヨーク州メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKCC; Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)の研究チームは、顕著な有効性を示す結果を報告しており、CD19-CAR遺伝子治療は、有望な新規治療法として注目を集めています。当社は、MSKCCが米国での臨床試験に用いたベクターを本臨床研究に使用する権利を平成23年に取得し、CD19-CAR遺伝子治療の臨床研究を開始する準備をしてまいりました。本臨床研究においては、MSKCCより提供を受けた材料をもとに臨床グレードのレトロウイルスベクターを当社で製造し、当社の遺伝子導入用試薬であるレトロネクチンとともに使用する計画です。

 

当社はCAR遺伝子治療を、TCR遺伝子治療と並ぶがん免疫遺伝子治療の開発候補の一つとしての位置付け、本臨床研究を通じ実用化に向けた安全性や有効性の評価を進めて参ります。なお、本臨床研究開始による当社連結及び単体の平成26年3月期業績への直接的な影響は軽微です。


 

【臨床研究概要】

 

試験名 CD19特異的キメラ抗原受容体発現Tリンパ球を用いた難治性B細胞性悪性リンパ腫に対する遺伝子治療臨床研究
対象患者 CD19抗原陽性の難治性非ホジキンリンパ腫(B-NHL)
試験実施機関 自治医科大学附属病院
治療法 患者の血液から採取したリンパ球に、体外で、がん細胞に発現しているCD19抗原を特異的に認識するCAR遺伝子を導入し、拡大培養を行った後、遺伝子導入細胞を患者に輸注する。
主要評価項目 本遺伝子治療の安全性
副次評価項目 腫瘍縮小効果、他
目標症例数 6例から最大18例
試験期間(予定) 3年間(平成26年4月から平成29年3月)

 

 

【臨床研究に関するお問い合わせ先】


自治医科大学附属病院 血液科
Tel:0285-58-7353 

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 事業管理部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

【語句説明】

 

キメラ抗原受容体(CAR)

CARは、あるがん抗原を特異的に認識する抗体由来の部分と、T細胞受容体由来の部分を結合させて作製された、がん抗原を特異的に認識できる受容体です。T細胞受容体と異なり、CARはヒト白血球抗原(HLA)の型に制限されることなくがん抗原を認識することができるため、がん細胞でCD19を発現している患者はHLAの型に関係なく治療の対象となります。

 

ヒト白血球抗原(HLA)

ヒト白血球抗原(HLA; Human Leukocyte Antigen)は、免疫系が自己と非自己を区別して認識する際に最も重要な役割を担う分子です。T細胞によるがん細胞の認識は、T細胞表面にあるTCRがHLAとがん抗原ペプチドの複合体に結合することで行われ、それぞれのTCRには結合できるHLAの型が決まっています。

 

CD19

B細胞の表面に存在する糖蛋白で、B細胞の活性化や増殖に関与しています。また、慢性リンパ性白血病や急性リンパ性白血病などの多くのB細胞リンパ腫のB細胞表面にも発現しています。

 

T細胞

標的細胞の傷害と抗体産生の調節の役割を担う重要な細胞で、Tリンパ球とも呼ばれます。免疫系の司令塔的な役割を担っており、末梢リンパ組織の胸腺依存領域に主に分布します。

 

TCR(T細胞受容体)

リンパ球(T細胞)に発現する糖タンパク質で、リンパ球が抗原を認識する際に作用します。TCR遺伝子が導入されたリンパ球が、患者の体内において、がん細胞を特異的に認識して攻撃し、消滅させることによりがんを治療する方法がTCR遺伝子治療です。当社は、MAGE-A4、NY-ESO-1、WT1等のがん抗原特異的TCR遺伝子治療の臨床開発を推進しています。

 

レトロネクチン®

レトロネクチン®は、当社が開発したヒトフィブロネクチンと呼ばれる分子を改良した組換えタンパク質です。レトロネクチン®を用いたレトロウイルスベクターによる遺伝子導入法は、レトロネクチン法として知られており、レトロウイルスベクターによる遺伝子治療の臨床研究のスタンダードとなっています。

 

レトロウイルスベクター

レトロウイルスとは、一本鎖RNAをゲノムとするウイルスの一種で、このウイルスが感染した細胞では、RNAゲノムから合成されたDNAが染色体に組み込まれます。その仕組みを利用して、レトロウイルスを改変したものが、遺伝子治療の際の遺伝子導入用ベクターとして広く用いられています。このベクターを使用すれば種々の細胞に遺伝子導入を行うことができ、安定した形質発現が期待できます。

 

非ホジキンリンパ腫

ヒトの免疫システムを構成するリンパ系組織から発生する腫瘍である悪性リンパ腫は、その形態学的特徴から、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分類されます。日本人の場合、悪性リンパ腫のうち約90%が非ホジキンリンパ腫です。首や脇の下、足のつけ根などのリンパ節が腫れ、しこりになるといった症状が現れます。日本人の2002年における悪性リンパ腫の年間推定患者数は約1万5500人、発生率は10万人に約12人程で近年増加傾向にあります。