タカラバイオ株式会社では、大腸菌由来のRNA分解酵素MazFの遺伝子を用いたHIV-1感染症遺伝子治療法の開発を進めています。この度、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科・難治ウイルス病態制御研究センターと共同で行った、臨床試験で用いるMazFレトロウイルスベクターの有効性・安全性評価試験の研究成果を2012年11月25日に日本エイズ学会(慶應義塾大学 日吉キャンパスにて開催)にて発表します。

 

当社は、米国にてMazF遺伝子治療の臨床開発を進めるべく、その準備を行っております。米国での臨床試験では、当社が開発・作製した臨床用MazFレトロウイルスベクターを用います。

今回、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科・難治ウイルス病態制御研究センターと共同で、臨床用MazFレトロウイルスベクターを用いて、MazF遺伝子を導入したヒトCD4陽性Tリンパ球を用いて、HIV-1に対する有効性のデータに加え、種々の安全性のデータを取得いたしました。

 

臨床用MazFレトロウイルスベクターを用いてMazF遺伝子を導入したヒトCD4陽性Tリンパ球にHIV-1を感染させることにより、抗HIV-1効果、HIV-1感染に伴うMazFタンパク質の発現量を確認しました。MazF遺伝子導入細胞では、1細胞あたり2~6分子のベクターが挿入された細胞において、ベクターの挿入量に関係なく同等の抗HIV-1効果を示しました。また、MazFタンパク質は、HIV-1感染後6日間の培養において過剰発現することはなく、安全であることが確認されました。さらにHIV-1 RNAが特異的に抑制され、細胞のmRNA発現は影響を受けないことを確認いたしました。これらのことから、MazFシステムを導入したCD4陽性Tリンパ球では、HIV-1 感染に伴ってMazFが発現しても、細胞のmRNAに対しては影響を及ぼさず、安全であることが細胞実験により確認されました。

 

今後、当社が作製した臨床用MazFレトロウイルスベクターを用いて、米国においてHIV-1陽性患者のCD4陽性Tリンパ球にMazFシステムを導入する体外遺伝子治療法の臨床開発を推進してまいります。 

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

【語句説明】

 

RNA分解酵素MazF

ニュージャージー医科歯科大学の井上正順教授は、大腸菌のトキシンのひとつであるMazFが、RNA中のACAの塩基配列を特異的に認識して切断する機能を有する酵素であることを発見しました。

 

HIV

後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスです。HIVはレトロウイルス科レンチウイルス属に属します。HIVは変異しやすいウイルスのため、ワクチンや抗HIV薬の開発を阻んでいます。HIVがT細胞などに直接感染することにより、あるいは感染細胞が非感染細胞に融合することにより、体内に広がります。 HIVは血清学的・遺伝学的性状の異なるHIV-1とHIV-2に大別されます。HIV-1は、世界流行の主体となっており、全世界に分布していますが、HIV-2は主に西アフリカ地域に限局しています。これは、HIV-2がHIV-1と比較して感染性や病原性が低いためと考えられています。

 

レトロウイルスベクター

レトロウイルスとは、一本鎖RNAをゲノムとする約0.1 μmのウイルスで、このウイルスが感染した細胞では、RNAゲノムから合成されたDNAが染色体に組み込まれます。遺伝子治療用ベクターとして、レトロウイルスの一種であるマウス白血病ウイルス(MoMLV:Moloney murine leukemia virus)を特別な細胞の中でのみ増殖できるように改変し、自己増殖能を奪ったものが広く用いられています。このベクターを使用すれば種々の細胞に遺伝子導入を行うことができ、安定した形質発現が期待できます。

 

CD4陽性Tリンパ球

細胞表面マーカーであるCD4が陽性であるT細胞のことです。活性化されたCD4陽性細胞は、他のT細胞の機能を誘導したり、B細胞に抗体産生を誘導したりし、免疫応答を増強します。HIVはCD4陽性T細胞に感染します。