タカラバイオ株式会社(社長:仲尾功一)は、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)を高純度(90%以上)に作製する技術を新たに開発いたしました。この新規NK細胞作製技術は、当社が開発したレトロネクチン®拡大培養法で培養したT細胞を利用するものです。今回開発した新規NK細胞作製技術について、第23回日本バイオセラピィ学会学術集会総会(12月9~10日、開催地:大阪)などにおいて発表します。

 

生体の免疫機構は、大きく自然免疫と獲得免疫の2つに分けられます。NK細胞は、これらのうちの自然免疫を担う重要な細胞の1つであり、ウイルス感染や細胞のがん化などによって体内に異常な細胞が発生した際に、すぐさまそれらを攻撃する初期防御機構としての働きを持っています。
健康なヒトの体内でも毎日数千個程度のがん細胞が発生していると言われていますが、自然免疫を担うNK細胞やその他の免疫細胞によって、これらのがん細胞が取り除かれることで、がんの発症が抑制されていると考えられています。
一方、獲得免疫は、T細胞やB細胞と呼ばれる免疫細胞によって担われており、生体が抗原(生体にとっての異物)に感染した後に、それらの抗原を特異的に認識する免疫細胞が体内に現われることで機能する免疫機構です。

 

近年、自己の免疫細胞を体外で増殖・活性化し、再び体内に戻すことで患者の免疫機能を高めるという、がん免疫細胞療法が広まり始めています。現在行われているがん免疫細胞療法は、獲得免疫を担うT細胞を利用したものが中心であり、NK細胞を用いたがん免疫細胞療法については、患者由来の細胞から安定して高純度にNK細胞を作製することが困難であったため、あまり普及が進んでいませんでした。
この度当社が開発した新規NK細胞作製技術には、レトロネクチン®拡大培養法で培養したT細胞が利用されており、NK細胞を90%以上という高純度で大量に作製することができます。当社は、新規NK細胞作製技術で得られるNK細胞の多くが、活性化したNK細胞が有する機能上重要なタンパク質(CD16やNKG2D)を発現しており、さまざまながん細胞株に対して細胞傷害活性を示すことを確認しました。

 

また、現在がんに対するさまざまな抗体医薬が上市され、治療に用いられています。抗体医薬の作用メカニズムの1つとして、抗体が生体内でがん細胞を特異的に認識して結合し、そこに呼び寄せられたNK細胞やマクロファージが、がん細胞を攻撃して殺傷するというものがあります。このように抗体を介して細胞を殺傷する活性のことを、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)と呼びます。
当社は、新規NK細胞作製技術で得られたNK細胞が抗体との併用によって高いADCC活性を発揮することを確認しました。この結果から、新規NK細胞作製技術と抗体医薬を組み合わせることで、治療効果をより高めることができる可能性が示唆されました。

 

当社は、獲得免疫を担うナイーブT細胞を用いたレトロネクチン®誘導Tリンパ球療法の臨床応用を進めていますが、もう1つの重要な免疫機構である自然免疫を担うNK細胞を用いたがん免疫細胞療法を確立することにより、患者の状態に応じた治療法の提供やナイーブT細胞とNK細胞の併用による、より効果的な治療法の開発などが可能になると考えています。今後、今回開発した新規NK細胞作製技術の臨床応用に向け、さらなる研究を進めていきます。

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

【語句説明】

ナチュラルキラー細胞(NK細胞)
NK細胞は、末梢血中に10~20%の割合で存在するリンパ球の一種で、ウイルスによる感染やがん細胞に対する初期防御機構としての働きを担っています。加齢やストレスなどによりNK細胞の活性が低下することが知られており、高齢化に伴うがん発症の原因の1つと考えられています。

 

レトロネクチン®拡大培養法
レトロネクチン®拡大培養法は、ヒトリンパ球の拡大培養の際に、インターロイキン2および抗CD3モノクローナル抗体に加え、ヒトフィブロネクチンを改良した組換えタンパク質である、レトロネクチン®を併用するものです。当社は、レトロネクチン®拡大培養法によって効率よくリンパ球を増殖させることができ、さらに得られた細胞集団に、生体内での生存能力が高く、抗原認識能も高いナイーブT細胞が多く含まれていることを確認しています。当社は、レトロネクチン®拡大培養法を用いたがん免疫細胞療法を「レトロネクチン®誘導Tリンパ球療法」と名付け、その商業化を進めています。


T細胞
標的細胞の傷害と抗体産生の調節の役割を担う重要な細胞で、Tリンパ球とも呼ばれます。免疫系の司令塔的な役割を担っており、末梢リンパ組織の胸腺依存領域に主に分布します。

 

自然免疫と獲得免疫
生体の免疫機構には、生まれつき備わっている自然免疫と、種々の抗原に感作されて惹起される獲得免疫があります。獲得免疫は、あらかじめ抗原の情報が記憶されていないと働かないのに対し、自然免疫は、ウイルスや病原菌が生体内に入った際に、即座に応答できる機構です。

 

B細胞
特定の抗原の刺激に応じて抗体産生を行う細胞で、Bリンパ球とも呼ばれます。B細胞の一部は、抗原の情報を記憶した細胞として体内に残るため、次に同じ抗原に感染した時にはすぐに抗体が産生されます。

 

がん免疫細胞療法
がん免疫細胞療法は、患者自身のリンパ球を、自身のがん細胞を攻撃できるように体外で活性化し、その細胞数を増やしてから、患者の体内に再び戻し、がん細胞を破壊に導くというものです。外科手術、放射線治療、化学療法などと比較して、一般的に副作用が少ないと言われています。

 

CD16
IgGの低親和性レセプター(FcγRIII)であり、抗体のFc部位が結合する活性化受容体です。標的細胞に抗体が結合するとNK細胞上のCD16分子とさらに結合し効率的にがん細胞を傷害します。近年多くのがん特異的抗体医薬品が開発され、その中には抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)を利用し機能する抗体も存在します。

 

NKG2D
C型レクチンファミリーに属する活性化レセプターです。NK細胞はこのNKG2Dを介してがん細胞上に発現するMICAやMICBなどの分子を認識し、細胞傷害活性を示すと考えられています。

 

マクロファージ
体内の異物を貪食し排除する働きを有する細胞です。取り込んだ異物の一部を、抗原として他の免疫細胞に提示する機能も持っています。

 

抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)
抗体依存性細胞傷害活性とは、がん細胞などに抗体が結合し、さらにその抗体にマクロファージやNK細胞といった細胞が結合することにより発揮される細胞殺傷機構です。マクロファージやNK細胞はCD16(Fcレセプター:FcγRIII)を発現しており、抗体のFc部分と結合することで、がん細胞に対して殺傷力のある物質を放出して目的のがん細胞を殺します。